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ホーム > インタビュー > 平山 征夫(5):インタビュー

元新潟県知事・新潟国際情報大学学長 平山征夫 聞き手 枝廣淳子 Interview11

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枝廣:
投資が行き着く時代がくるというのは、経済が成熟すれば当たり前なのでしょうか。
平山:
私は1944年生まれで、昨年70歳になりました。生まれた翌年が終戦です。日本が第二次大戦に敗戦したところから新たな戦後の経済成長が生まれたわけで、日本経済は今年70歳になります。高度成長は、昭和29年からですから、私が10歳からです。それから16年、高度成長経済は続きました。10歳から26歳くらいまでです。まさに伸び盛りで食欲はあるわ、着るものもいる。おふくろは、洋服から靴から何だってほしくてしょうがない子どもを抱えて、必要なものがいつでもいっぱいある状態です。購買力が旺盛でどんどん経済が大きくなるわけです。
今、この歳でデパートに行っても、買うものはあまりない。タンスを開ければそろっています。「成熟する」ということは、このように満たされてゆく分、需要は減り、成長が鈍化するのは当たり前なんです。いつまでも成長しないと困ると考えるのは企業です。
ケインズの先輩ですが、ここにもう1人、重要な人がいます。ヴェブレンという宇沢弘文先生が大変尊敬しているアメリカの経済学者です。宇沢先生は、ヴェブレンの妹さんの所にたまたま下宿したんです。

写真:ソースティン・ヴェブレン

ヴェブレンは、1929年の世界恐慌が発生する2カ月前に亡くなるのですが、恐慌の発生を予見して亡くなっている。「人間はほかの人との相対的比較において、自分が上回っていると幸福だと思う動物で、絶対的レベルで幸せだとは思わない。だからもっと豊かに、とばかり考えていると、バブルになり、それがはじけて大変なことが起こる」と。その警告通り、2カ月後に世界恐慌が発生したわけです。
需要が不足する時には、ケインズとヴェブレンは「財政出動をして有効需要を創出すればいい」というところで一致しました。一般的には有効需要説はケインズが唱えた新しい経済学と言われていますが、それに先立ってヴェブレンは同様の考えをしていたのです。
ヴェブレンはもう1つ重要なことを言っています。人々の生活は産業社会化、すなわちいろいろな品物を企業が創って供給してくれる社会になって、豊かになる。豊かになること自体は素晴らしいことだが、それを担っているのが企業であることは問題がある、と言っています。
なぜならば、人々は、生活の潤いとして新しい、より便利なものを必要とするけれども、企業は、常にもうけるために供給する。企業がほとんど雇用の場を提供する中心になっている資本主義というシステムは、常に利益を目指し、モノを作って供給してゆく、成長しないと成り立たない仕組みだからです。
でも、人間の社会は成長が目的でなくてもいい。幸福だと満足できればいい。そう考えれば人類は幸福を感じるのに必要な経済的豊かさという目的をほぼ達成した。私は少なくとも8割は達成したと思っています。

経済的豊かさの先にめざす
成長と幸福のあり方を考えよう

枝廣:
経済的豊かさという目的を達成した私たちが次にめざすものは何になるのでしょう?
平山:
さあ、ではこれからどう生きたらよいか――さきほど述べた「賢い人」になるべきということですね。心豊かな生活のためには、経済的なものよりも、別なものに価値観を見出すのです。「僕は歌舞伎が好きだから」とか「浮世絵が大好きだ」とか―経済成長がほとんどなかった江戸時代の人々はそうやって生活をエンジョイしていたわけでしょう? 江戸の町民文化は経済成長をしなかったから花開いたともいえるかもしれません。
もっと言えば、人類は、ギリシャ、ローマから始まって、16世紀~17世紀ぐらいに資本家が出てきて、資本主義が生まれてくるまでは、長い期間、ほとんどゼロ成長です。少なくとも経済成長が今のように重要問題ではなかったのです。経済成長という言葉は、長い人間の歴史から見れば、それ程重要な言葉ではないのです。
なぜかと言うと、一定のエリアに1,000人の人が生活していれば、その人たちは人口もほとんど変わらず、食べるものもほとんど同じで、1年間やることはほとんど決まっている。必要な分を、畑に行って耕して、海に行って魚を捕って、食べるものが調達されていれば、あとは決まった仕事をしていれば、みんながその1年は今から見れば豊かではないかもしれないけれども、餓死しないで食べれる状態になり、安心して暮らせる。
翌年になっても同じことを繰り返すだけだから、何の進歩もないし、成長もしない。でも、少なくとも死ぬことはないので安心して家族が寄り添って、幸福に思って暮らせるのです。
そこに急に資本家が出てきて、労働者を雇って、大規模な農園を造って、ブドウを栽培し、工場をつくってブドウ酒に加工したり、あるいは船を仕立てて、インドに行って、コショウを安く買いたたいて、何十倍、何百倍で売って、大もうけしたりするようになる。こうなると毎年変わるわけです。「成長」してゆくわけです。
経済学者の水野和夫さんがよく言いますが、日本は今、17年間、2%以下の低金利時代が続いています。これは世界記録です。かつての世界記録は、16世紀に11年間続いたジェノバです。ジェノバで長期の低金利が続いたのは、あらゆる土地にブドウを植えて、それをブドウ酒に変えた結果、お金はあっても、ブドウを植える土地がなくなってしまい、ブドウ酒を造るための投資する案件がなくなったからです。投資が行きついた社会ですね。そこからジェノバが立ち上がるのは大航海時代の到来です。
今の日本もジェノバに似ているんです。投資が行きついている。だから成長率が鈍化し、経済はデフレ化する。ところが、アベノミクスは、従来通りの経済対策をとって成長率を回復しようとしている。50兆円くらいに低下した年間投資額をかつての投資規模の70兆円に戻そうとしています。私にはそれは全く無理に見えます。やめたほうがいい。
もう、かつてのような成長は無理です。むしろ、初期の経済的豊かさの目的を達したのだから、言い換えれば行きついたのですから、別のシステム、別の国のあり方、どうやったら一番「最大多数の最大幸福」をもたらせられるかということを考えるべきじゃないのか、と私は考えます。
ところが、資本主義では企業が中心ですから、「成長を至上命題にしない」ということを選挙で掲げると、必ずその政党は負ける。国民もみんなまだ、豊かになることが幸福の絶対条件ではない頭になっていないから、税金が少なくて給料が上がる政策を打ってくれる人がいいに決まっている。そう思っています。そんなことがいつまでも続けられるわけがないことは考えればわかることだと思います。

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